京都「なかむら」中村文治の 京の料理
老舗の料亭主人が作る豊かな味 一子相伝の四季のおそうざい
青山紀子 *撮影
中央公論社 / 暮しの設計184号
昭和63年6月初版 / 30×21 / 136p
ソフトカバー
[ 商品番号 N゜sf2-184 ]
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創業は江戸時代、文化文政の頃にさかのぼり、“一子相伝”の家訓を守り続けられていることでも知られる老舗の京料理「なかむら」…その五代目当主である中村文治氏がまとめてくれた京料理の御本です。
お店でお客さまに供されているお料理、 “お客料理” にヒントを得たというお料理、日々召し上がっているおばんざいなどが、家庭でも愉しめるよう四季を追って紹介されていて、特に筍と鱧(はも)のお料理はバリエーションが充実!
春夏秋冬を彩る京の行事のお話と共に、京の暮らしやその心が伝わってくるような読み心地となっています.:*・゜
お料理には分量表記がありませんが、季節によって、また材料によって、日々変化する食材とのお付き合いや、前後のお料理に合わせる味加減のお話、お鍋の大きさや厚さの使い分けなど、分量では量れないお料理の核心が伝えられています (目安として、基本のだしや吸い物地、味噌汁の地は分量表記があります)。つくり方は丁寧に説明されていますが、どうぞご了承ください。
春のおもてなし / おべんとう、夏のおもてなし、秋のおもてなし / おべんとう、師走のおもてなし、お正月の料理、おせち料理 (四重ねの組み重と、蒸しずしと蒸しおでんから成る“温かいおせち”も紹介♪)、正月のおかゆなども紹介されています。
「なかむら」の名物料理である 雑煮やぐじの酒焼き、他、さばずしやささがれいの下ごしらえ、あなごのだし巻きは 工程写真も丁寧に掲載されていて、はじかみの作り方、たけのこのゆがき方、 たけのこの絹皮について、 だしを取った昆布で作る塩昆布の作り方、はもの骨切りの方法、梅肉の作り方、すし飯の作り方、ポン酢醤油の作り方、松前酢の作り方、京の漬けもののお話など ミニコラムも充実!
また、四季の京野菜や 生麩、ゆばについても 詳しい紹介があり、「雑煮とぐじの酒焼きは「なかむら」の名物料理―創業以来、百余年も毎日作りつづけてきた 一子相伝の味です」や、 大村しげさん×土井勝さん×中村文治さんの鼎談「シンプルで経済的、そして健康的な料理が京の家庭料理―“始末”で“粋もっさり”のおばんざいには学ぶことがいっぱいあります」と、読みものも♪
目にも愉しい趣向が凝らされた盛り付けもとても美しいです.:*・゜
どうぞご堪能ください.:*・゜
- 春の料理
- あぶらめの揚げものと山菜のてんぷら
- わらびのおひたしと焼きゆりね
- 桜ずし
- あいまぜ
- あなごの有馬煮
- さばずし
- ふきの含め煮とぜんまいの辛子和え
- せりと鶏肉のご飯
- 豆腐のふろふき
- 木の芽和え
- 豆ご飯二種 / えんどう豆のご飯、一寸豆のご飯
- てっぱい
- たけのこの変わりずし
- たけのこと山ぶきのつくだ煮 花山椒添え
- たけのこと魚介の酢のもの
- たけのことわかめのすり流し
- たけのこの春寒煮
- たけのこの絹皮とゆばのたき合わせ etc...
- 夏の料理
- 白子豆腐
- あじさい豆腐
- かもなすの田楽
- かんぴょうと糸瓜の辛子酢味噌
- かぼちゃのあつもの
- かぼちゃの皮となすの皮のきんぴら
- お精霊さんのお平
- あらめとお揚げ
- 粟麩の揚げ煮
- 夏の味噌汁三種 / どんがめ汁、糸瓜の味噌汁、みょうがの味噌汁
- はもの松皮造り
- はもと春菊の酢のもの
- はもの吸いもの
- はもの子の酒炒り
- はもの八幡巻きのてんぷら etc...
- 秋の料理
- ぐじと秋なすのみぞれ仕立て
- にしんなすび
- 焼き鮎
- 錦繍の秋の八寸
- まつたけとはものすき
- 柿なます
- 晩秋の八寸と滝川豆腐
- 秋野菜のたき合わせ
- もちづき
- しめじご飯
- まつたけご飯
- 吹き寄せご飯 etc...
- 冬の料理
- 冬の八寸
- 筑前だき
- 里いものたいたん
- さばのきずし(しめさば)
- しのだ巻き
- かぶら蒸し
- 鯛かぶら
- おから
- うずみ豆腐
- 千枚漬けと水菜の漬けもの
- 冬の味噌汁三種 / たぬき汁、大根の味噌汁、粟麩の味噌汁 etc...
The key to the treasure is the treasure
毎日作る雑煮の味を 最も左右するもの、それは味噌自体です。味噌の味が違うのです。 そして、味噌を割るのが水だからこそ難しいのです。もし、水でなく、だしを使ったら、味はもっとごまかせます。 毎回、同じ味にする作業は、もっと簡単になるでしょう。 しかし、だしを使えば、白味噌の味も香りもころしてしまいます。 それくらい、白味噌というのは弱い味噌なのです。 白味噌の、あのまったりと甘い豆の味と香りを引き出すのは、水しかないのです。
白味噌は、皆さんが買い求めるのと同じように、私の店に 500グラム入りの真空パックで届けられます。一見、同じものが届けられているようですが、中に入っている味噌は一つずつ違います。パックに詰められる前、味噌が味噌屋さんの樽にある状態が、まず違うのです。
季節によって、味噌は原料からして違います。使用する豆が、とれてどのくらいたっているか。そして豆を水につける時間、加える塩の量の増減……。
第一、昔は白味噌は三月までと決まっていて、夏場には作られなかったものなのです。 気温が高くなると味噌は発酵してしまって、作れないのです。現在はある程度、強制条件で作りますが、やはり無理があります。ですから、夏場は私が最も苦労する時期でもあります。
それでは同じ季節なら同じ味かというと、そうはいきません。味噌樽の表面と底、真ん中とふちでは、全く味が違うのです。もったいぶった言い方に聞こえるかもしれませんが、これが毎日味噌を溶いている者の正直な声なのです。
あるとき、どうにも辛い雑煮ができてしまうことがあります。 作っている私にも、理由がわからないのです。 水を足せばよいとお考えになるかもしれませんが、水を足せばとろみが変わってしまいます。どうしようもなくて捨てることになります。
その同じパックの味噌を使うとき、今度は少し薄めに作ってみます。そして、いつもよりも火にかける時間を長くしてみます。これで成功することもあります。
あるいは、次の日までおいて水分をとばし、もう一度水を加えて煮ると、うまくいく場合もあります。 さらには、また、しばらくおいておくと汁が分離して、上層が甘く下層が辛くなることを利用し、上澄みを使って下を捨てるという手を使うこともあります。
水分がとんだ分、水を加えるのでは同じではないかと思われるでしょうが、そこが料理の素晴らしさ、不思議さ、難しさなのです。そして厚手の鍋を使っていただきたいというのも、この、熱の魔法が使えるからに他なりません。さらに断言するならば、なかむらの雑煮は、薄手の鍋では決してできないのです。
水で味噌を溶く、雑煮。この料理は「なかむら」の料理の根本です。いい材料を使って、その味を活かす素朴な料理。
「今日は、アカン」と、30年包丁を握っている私でさえ首をかしげる、この単純な料理こそが、「なかむら」の料理の出発点でもあるのです。
「雑煮とぐじの酒炊きは「なかむら」の名物料理」コーナーより
Information
出版社品切れ または絶版 となっています >2018年5月現在