私の保存食ノート いちごのシロップから梅干しまで
佐藤雅子 *著
仲條正義 *装丁
狩野弘 *写真
文化出版局
1990年5月新装版初版 / 24.5×19 / 155p
ハードカバー
[ 商品番号 N゜sf44-1 ]
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佐藤雅子さんは明治42年生まれ、日本料理の妙手であったというお母様はまた、お育ち柄 海外の文化にも長けてらっしゃって、当時はまだ珍しかった洋風のお食事が食卓に並ぶお家だったそうです。
そんなハイカラな生家から嫁がれたのは、 ご実家とはまるで正反対な家風の旧家… そこで一家の主婦として、お母様から受け継がれた味、おしゅうとめさんから受け継がれた味 etc... 40年にわたって家族のために作られていた保存食とその思い出をまとめてくれた1册です。
春夏秋冬季節を追って紹介されているのは、ウスターソース、塩ハムやコンビーフ、ソーセージ、なれずし、塩辛やうるか、奈良づけ、なすの砂利づけ etc... 一介の主婦の手とは思えないような本格的な保存食の数々! お味噌や梅干しなど、当時は今よりお家でつくるのが一般的だったであろう保存食も見受けられます。
眺めているだけでわくわくするような御本なのですが、なにより素敵なのは、アイデアと工夫と愛情たっぷりの保存食♪ 例えば、シロップを作った時に絞り残したいちごを利用してつくるいちごジャム、ピクルスのお酢を利用してつくるマヨネーズ、丸い型の何の変哲もない抜き型クッキーに、同じ大きさのめん棒の先に花の模様を彫ってスタンプのように押して飾り模様をつけた花型ビスケット、鏡びらきして粉々になった“くず”のお餅を用いた甘酒、お庭の月桂樹を剪定した際に枝を“宝物のように大切に”とっておいて、庭にレンガを積んで作った炉に入れて香りを移し燻した鶏のくん製 etc... 1つの保存食作りの楽しみを幾つもの楽しみに拡げてらっしゃったご様子や、ご家族の喜ぶ顔を思って工夫されていたご様子が伝わってきて、心豊かな心持ちをもおすそ分けしていただけるような読み心地.:*・゜
また、レシピに添えられた 保存食にまつわるお話はもちろんのこと、お子さんの頃のお話やお父様とお母様の教え、蔵のお話や戦争時のお話、101歳、89歳と大往生を遂げられた義理のご両親のお話、つぼや器のお話、ご趣味の木彫りのお話 (手作りの素敵な木しゃもじも紹介されています♪)、冷蔵庫の使い方のお話、 西ドイツに旅行された時の思い出話、 香辛料や香草・お茶のお話 etc... エッセイも大充実!旦那さまや娘さんが寄せられた文章もあり、かけがえのない濃密な時間を共に過ごす家族についても考えさせられます。
なお、こちらは1970年代に上梓された御本が版を重ね数十年、その後判を小さくして生き続けていたものを、文化出版局の編集の方の“原点のままで”という英断で 1990年に上梓された新装版で、原点のままなので文中のお料理の写真は全てモノクロ(扉ページ4ページはカラー写真です)…美しいカラー写真に彩られたお料理本ではありませんが、読み終わった後にほうっと胸がいっぱいになって、早速お台所に立ちたくなるような、ずっと読み継いでいきたい1册となっています.:*・゜
下記で、紹介されている保存食の数々と、「母のノートより」として、お母様のお料理ノートから抜粋された明治の頃のレシピが紹介されたユニークなコーナーもご紹介していきますね。
どうぞご堪能ください.:*・゜
- 春
- いちごのシロップ
- …いちごのシロップのゼリー
- …牛乳ゼリーといちごシロップのソース
- いちごジャム
- いちごのマデラー酒づけ
- 夏みかんの皮の砂糖煮 / ロスコン(リングクッキー) / ババ
- 夏みかんのマーマレード
- オレンジのマーマレード
- 夏みかんのスカッシュ
- 夏みかんと青梅のしょうちゅうづけ
- ふきの葉と削りかつおのつくだ煮
- ふきの葉と梅干しのつくだ煮
- きゃらぶき
- ふきの甘酢づけ
- 干したけのこ
- …棒だらと干したけのこの煮もの
- …ちらしずし
- …野菜豆
- いんげんのピクルス
- いんげんのつくだ煮
- 夏
- 梅干し
- しそと花かつおの箸やすめ
- 梅びしお
- 青梅のしょうちゅうづけ
- …ババロア
- …梅酒のゼリー
- 青梅の砂糖づけシロップ
- 青梅のはち蜜づけシロップ
- 新しょうがの梅酢づけ
- 紅しょうが
- 新しょうがの砂糖煮 / ジンジャービスケット
- しょうがの皮のびん詰め
- しょうがじょうゆ
- うりの奈良づけ
- なすときゅうりの奈良づけ
- 青じその葉の塩づけ
- にんにくみそ
- にんにくのしょうちゅうづけ
- ドミグラスソース
- ウースターソース
- あんずのジャム
- あんずの砂糖づけ
- 秋
- 穂じその塩づけ
- 穂じそのひしお
- なすの砂利づけ
- きゅうりと小玉ねぎのピクルス / マヨネーズ
- おろしゆず
- みそ
- いかの塩辛
- 鮎の苦うるか
- 鮎の子のうるか
- いわしの酢油づけ
- いわしのつくだ煮
- 小あじの牛乳づけ
- りんごジャム
- りんごのゼリー
- 花型ビスケット
- フルーツケーキ
- ビーツとゆで卵の甘酢づけ
- 冬
- べったらづけ
- すぐき
- てっかみそ
- ゆずの砂糖煮
- だいだい酢
- 鮭の酢づけ
- 鮭の酒づけ
- 小あじのなれずし
- 塩ハム
- コンビーフ
- 鶏のくん製
- 豚肉のしょうゆづけ
- レバーのしょうゆづけ
- ソーセージ三種
- …牛肉のソーセージ / 豚ロースのソーセージ / 魚のソーセージ
- …ゼリーソース二種
- レバーペースト
- チーズペースト
- …ミルバートースト
- …クリームチーズ(市販のものにフレーバーをつけたバリエーションです♪)
- キャラメルクリーム
- ピーナッツタッフィー
- はち蜜入りビスケット
- 甘酒
- 母のノートより
- ジャミ、ジェレー概則
- キューカムバー・ピークル
- ジンジャーケークとジンジャーエード
- トマトピューレー
- 魚類をつけものにする法
- 菓子概則
- 肉を塩づけにする法
- ポークソーセージとフライドポーク
The key to the treasure is the treasure
よく梅干しにかびがでたとおっしゃるかたがいますが、これは最初の塩の量が少なかったり、梅を充分に干さなかったために水気が残っていたりすることが原因です。またかめに水気が残っていて、不潔になったりしてもかびがでることがあります。塩が少なかったためのかび以外は、すべて手入れが悪いからといえましょう。
しゅうとめは梅干しにかびがでると不吉なことがあるとよく申して、手無精をきつくいましめておりましたが、このことばを思い出させるようなことが、最近、わが家にもおこりびっくりしてしまいました。家に病人がでて、入院させたり看病したりで病院通いをする日が続き、たいへん忙しい思いをして、保存食のことを忘れているうちに、しばらくたってから、どうにか落ち着いて、思い出したようにかめをのぞいて見るとかびがでているのです。しかもかびは梅干しだけではなく、ほかの保存食品にもでておりました。保存食作りを始めてから、もう三○年近くにもなりますが、これまでめったにかびをだしたことのなかった私はびっくりしてしまいました。かびがでると不吉なことがあるというしゅうとめのことばは、家に何かことがあると、そちらにかまけてしまって、つい保存食の手入れを怠ってしまい、そういうことが原因でかびがでるのだという意味でもあったのだと、つくづく思い知らさせたものでした。梅干しにかぎらず手作りの保存食には、なによりも手入れがたいせつということをあらためて肝に銘じています。
昔の人にとっては梅干しはなにより役にたつ保存食であり、毒消しだったとしゅうとめはよく申しておりました。眠れぬ夜中、台所で梅干しをそっと口に含んでいたしゅうとめの姿がなつかしく思い出されます。
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