画集 野の花と小人たち

画集 野の花と小人たち

安野光雅 *著
岩崎書店
1976年8月初版 / 22×30.5 / 56p
ハードカバー
[ 商品番号 N゜e2-1-2-2 ]

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1973年4月~1975年3月まで、24回に渡り、福音館書店発行の「母の友」の表紙として描かれた“野の花と小人たち”の絵がトリミングなしでまとめられ、安野光雅さんによるエッセイが添えられたエッセイ画集です:*・゜

描かれた野の花は、すみれ、れんげ、ほたるぶくろ、かわらなでしこ、なわしろいちご、ひがんばな、のぶどう、からすうり、あざみ、やまのいも、いぬふぐり、なずな、たんぽぽ、しろつめくさ、つゆくさ、しろむしよけぐさ、どくだみ、つりふねそう、ひめしおん、りんどう、つるうめもどき、やぶらん、えのころぐさ、つくし、むしとりなでしこで、最初と最後のすみれとむしとりなでしこ以外全てに、安野光雅さんによるエッセイが添えられています♪

絵は、お母さんと子どもの情景や、子どもの遊ぶ姿が、野の花を背景に描かれていて、私たち人間から見るとちいさな草花が、愛らしいこびとの目線で大きく描かれています。

優しくやわらかな線に、美しく心に沁みるような清らかな色使い... 眺めていると、子どもに戻って、野の花と戯れているような、そんな懐かしい気持ちになり、心が温かくなってくるよう:*・゜

安野光雅さんのエッセイも、なんとも言えない魅力があり、防空演習や軍事訓練にあけくれながらも、豊かな自然と戯れ遊んだ子どもの頃の思い出、復員してご両親の元に帰る道すがら目に飛び込んできた思い出の花、大人になり、“花を愛する”ようになって絵に描き留めていくなかでのエピソード、環境破壊 etc... 心に沁み入ります。

あとがきも素晴らしいので、少しだけ抜粋して下記でご紹介していますが、お母さまがあきびんにいける野の花のお話も歳を重ねるごとに心に沁みる素敵なお話で、抜粋する箇所を悩むほどでした。

どうぞご堪能ください:*・゜

The key to the treasure is the treasure

 あれは、十一月の終わり、紅葉もすぎたさびしい季節であった。花を写生にきたのに、もう花らしい花はすでになかった。やぶの中でヤブコウジの赤い実をみつけたので、写真にとろうと思ってカメラをのぞいてみたら、いちだんと美しく思われた。黄色いものがあったら、もっときれいになるだろう。などと思うのは、絵かきの悪いくせで、そのカメラの中の構図をいちだんともっともらしくするために、黄色くいろづいたツルクサを持ってきてあしらってみた。予想に反してカメラの中の世界は一変した。きれいにはなったが、決して美しくはなかった。それは自然ではなく、人間が加筆訂正したうその世界が出現したにすぎなかった。

 カメラでのぞく一メートルに満たぬ世界にも、自然の秩序というものがあったのである。木の枝は自然のままにのび、つるがからまり、枯葉や雑草が、解きがたいほどに折り重なっているのだが、ひとつとして自然のおきてに背くものはなかった。私の持ってきた黄色い葉は、どのように置きかえてみても、その世界になじまぬばかりか、後悔してその葉をもういちどとりのぞいたあとにも、ふたたび、あの美しい世界はかえってこなかった。

 人間のいるところばかりが世界ではない。山の中も、道のそばも、人間があらためて意識しないどんな小さな部分にも、自然は息づいて、目をみはるような世界をくりひろげているのである。

 いまがもし晩秋ならば、ノアザミはほとんど立枯れ、あの細長いカヤの葉ともつれあうようにして秋の陽ざしを享受しているだろう。そしてもうすこし目をこらして見るなら、赤いテントウムシの一ぴきか二ひきはかならず見つかる。運がよければ、草かと見えたのがカマキリで、まばたきもせず何かしら冥想にふけっているのを見ることもできるにちがいない。

 私が放心するというのはこんなときである。植物に関するささやかな知識や、ピカソやベートーベンに関する饒舌は、この場合完全に力を失う。放心する私はひょっとすると、あのカマキリのように、天の声を聞こうとしているのかもしれない。

「野草傷心…あとがきにかえて…」より

Information

1997年にハンディー版も上梓されています。

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