The key to the treasure is the treasure
心が暗くなるようなニュースに、自分の生きている場所が、とても、いいものだとは思えない時、自分自身にも嫌気がさしてしまう時――。季節の変わり目の大風や、いつも通る道の植物に、わたしは何度も救われました。たくさん笑ったり喜んだりするために、この世界に生まれてきたのだと思いたいから、かなしみに敏感になりすぎないように、と、思う。そして、幸福に鈍感にならないように、と、心する――。
数年前、父親が、あとしばらくの命だと聞いた時、窓の外の七月の葉っぱが、突然、透けるようにひかって、一枚ずつが立ちあがって見えて、驚きました。もう、この生いしげる緑の季節を一緒に見ることは、できないんだよ――と、葉っぱが、言うようでした。
もしも――
今日一日かぎりで、この世界のすべてにさようならを言わなければならないとしたら、なんでもないと思いこんでいる日常は、もったいないぐらい新鮮で、いとおしい。
寒い日に、息が、しろくなることも。夏のゆうがたのにおいも。
流れる水の、まるくなったひかりも。それをさわるときの不思議さも。
月がのぼることも。太陽が明るいことも。
美しいものは、やまほど。
きりなく。
あたらしい朝は、毎日生まれてきて、あたらしい風は、一瞬ごとにふいている――。
あとがきの文章より♪