三岸せいこさんの世界

昨今、続々と刊行されている絶版コミックスの復刊・文庫化の流れはとても嬉しいことだし願いでもあるのだけれど、これからお届けする三岸せいこさんのこの2册は、出逢いの衝撃とその思い入れから断然、新書版*緑のチェックのぶーけコミックスで読むのが気分。
そして復刊されて、よりたくさんの人に読んでもらいたい、知ってもらいたいと心から思う反面、あまりたくさんの人の目に触れさせたくない、心の奥の一等大切なところにしまって、そっとそっと守るように読んでいきたいとも思ってしまうような、そんなさまざまに微妙な気持ちを起こさせる、紹介するのも少しためらってしまったような、私にとってはほんとうに宝物といって良い愛しい本たちです。

三岸せいこさんが活躍されていたのは、昭和53年~58年のわずかな期間、デビューは「りぼん」で、3作目からはずっと「ぶーけ」で作品を発表されています。とっても寡作な方で、全作品はわずかに13本!(そのうちの10本が、下記の2册のコミックスに収められています)。

作風を語るのは、その思い入れ故とても難しいのですが、大島弓子さんの世界をもっとファンタジックにメルヘンチックにした感じでしょうか。
榛野なな恵さん、また、ご自身ファンであったというT・カポーティ氏の小説がお好きな方にもお薦めしたい感じです。
そして、良い意味で(商業主義的ではないという意味で)アマチュア的、締めきりはもちろんあったと思いますが、好きな作品・描きたい作品を納得いくまで描いた、という感じが、作品の完成度から漂っています。

洗練された細く柔らかい綿菓子のような線で描かれるのは、優しく美しく儚く繊細な、三岸せいこさんでしか描けない世界。読後は、まるで上質な欧州映画を観終わったような、切なくも満たされた気持ちでいっぱいになります。

あくまで優美な三岸ワールド、でも退屈しないのは、センスの良いコミカルなテンポの良さやあちこちにちりばめられた文学趣味的な愉しさのなせる技!そして、繰り返し読み返したくなるような心地良く美しい文章と共に、背景のインテリアや登場人物のファッションなど、素晴らしいセンスで描き込まれた1コマ1コマ…それらは音楽的なまでに美しい旋律を奏でて、キラキラと煌めいています。

また、ページを辿って1册を読み終えると、いつも不思議なくらい時間が経っていて……ほんとうにまるで映画を観たような、それも映画館の暗闇で観た後のような、あの独特の感じがします。
そして、読み終えるたびに、素晴らしい作品を生み出して下さったこと、リアルタイムでは無理だったけれど時を経て、三岸さんの作品に出逢えたことに感謝してしまいます!

ちょっと贅沢ですが、映画を観る時のようにゆったりと時間を用意して…
どうぞ三岸せいこさんの世界へお出掛けください.:*・゜

ヴィクトローラきこゆ

ヴィクトローラきこゆ

三岸せいこ *作
集英社 / ぶーけコミックス新書版
1981.4 初版 / 新書サイズ / 205p
ソフトカバー
[ 商品番号 N゜e2-6-2-1 ]

sorry... sold out

三岸せいこさんの初めてのコミックスです。

記憶をモチーフに、哀しいまでに美しく温かい交感を描いた「ヴィクトローラきこゆ」(名画「まぼろしの市街戦」がお好きな方は必読です)、

平和な村にある日起こった卵の異変!?を、問題意識を交えながらコミカルに描いた「スパンクさんのにわとり小屋で」(デビュー作です!)、

過去と想い出に捕われた少女と、孤独な少年の物語「夏の扉をあけて」、

若い頃、心の扉を閉ざしたことへの贖罪を背負う老人の奇妙な申し出の謎と、青年との交流を優しく包み込む様に描いた「水曜日 微笑の森にて」、

変わってしまった憧れの少女を取り戻そうと、奮闘する少年の物語「ねむり娘と夢男」、

やもめパパと4人の子供たちが引っ越した新しい家はいわくつきの…!ゆかいなコメディー「ブルーベル小路へいこう」、

上記の6作品が収められています。
他、作者による作品解説「ハーイ!せいこです!」も。

キラキラと煌めくような1册です.:*・゜

夢みる星にふる雨は…

夢みる星にふる雨は…

三岸せいこ *作
集英社 / ぶーけコミックス新書版
1982.10 初版 / 新書サイズ / 205p
ソフトカバー
[ 商品番号 N゜e2-6-2-2 ]

sorry... sold out

三岸せいこさんの2册目のコミックスです。

失恋から地球を離れ、パローディア星に向かった少女が出逢ったこと、そして見い出したことを、メルヘンチックに楽しく優しく描いた「夢みる星にふる雨は…」、

昔失った恋人が詠った庭に、その半身と心をとらわれた母を救う少女の美しく儚くそして優しい物語「ミセス・ロビンソンの庭」、

恋を追って捜し続けた気むずかしやのお姫さまの、春のようにやわらかく暖かなメルヘン「ものみな緑の春の姫」、

一瞬の時の強さをそのリフレインを通して、ファンタジックに哀しく切なく美しく描いた「リフレイン」、

上記の4作品が収められています。
他、「作品リスト」、また、T・カポーティ氏への恋や創作風景のエピソードなどを描いた雑談スペース「ハーイ!せいこです!」も。

キラキラと煌めくような1册です.:*・゜

The key to the treasure is the treasure

  • 気うつはそのため?
  • そのての内気さは命とりですわね
  • でも私もそうでした 内気でコンプレックスのとりこ
  • 強がっても自信のない不器用な少女時代
  • 一番美しい時代を生きそこねましたわ
  • はたせぬおもいばかりのあの頃…
  • でもあとで知りました 望みえないものは何もなかったのだと
  • 青い空のような清浄さと直感のころ
  • 空にむかってまっすぐのびていったころ
  • わたしはその頃ものみな緑の春の姫で 
  • わずかな勇気とエレガンスさえあったなら…
  • 美しいドレスやメイクアップ術やヘア・ファッション
  • もろもろのもの!神さまがあたえてくださったのは何のため?
  • みにくいアヒルの子なんていないもの
  • そしていつの日か たとえば……
  • 淡く明るい午後の陽の中の とおりすぎる光と影の一瞬に
  • あなたは いつもと違った自分を見つけるのです

『夢みる星にふる雨は…』より

Information

出版社品切れ または絶版 となっています >2018年6月現在

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