The key to the treasure is the treasure
- 谷内さんを知るずっとムカシからぼくは谷内さんの大ファンであった
- 谷内さんを知ってからというもの何度も谷内家を訪ね
- 絵を見せてもらうのが愉しみのひとつになった
- 少年時代のスゴイ絵に感動した
- コワイ絵であったが何んともいえぬ魅力があった
- このコワサこそ谷内さんの本質だと思った
- こんな絵のことを谷内さんは
- 母胎回帰
- と呼んでおられた
- しかしこの種の絵を描くことはかなり意図的に避けておられた
- 絵と自分が一体になっていくのがコワイともいわれた
- 谷内さんは大人になっても谷内少年であった
- 子供だけが見るコワイ世界を谷内さんは大人になっても見ることができたのだ
- 谷内さんのコワイ絵はぼくの本性でもあった
- 谷内さんがコワガッタのは
- もうひとつの分離された自己と対峙することのコワサだったのだ
- 自己を知ることは困難である
- だが谷内さんは
- 知ろうと思えばいつでも自分と向い合うことのできる人だった
- つまりいつでもコワイ絵の描ける人であった
- ところがこのコワイ絵はなぜかぼくを安らげた
- 母胎回帰
- なんだ
- 母胎回帰がなぜ安らぎとコワサを持っているのだろう
- 安らぎとコワサは本来ひとつのものかもしれない
- 死
- それは母胎回帰のことなんだ
- ぼくが本能的に魅かれた安らぎは死の安らぎだったのだ
- 谷内さんがコワイ絵を描くと自己がそれと同化する危険があるといわれたのは
- 死の恐怖
- だったのだ
- 谷内さんと交わした最後の言葉は
- 「死のイメージするコワイ絵を本からはずして下さい」
- だった
- 谷内さんの母胎回帰を予感する言葉である
- そして今
- 谷内さんはコワイ絵と合体されたが同時に
- 永遠の安らぎを得られ
- 宇宙の母胎に回帰してしまった
- そんな谷内さんの本を作りたいと思った
- 考えは二転三転した
- 谷内夫人とも相談した結果
- 「コワイ絵も入れましょうよ あれが谷内の本質ですから」
- ぼくもそう思った
- この本の中の作品はぼくの好きなものばかりだ
- 作っているうちに錯覚して自分の作品集を作っているような気に
- なるほどぼくは
- 谷内さんと一体になっていた
横尾忠則さんの「あとがき」より